「母をたずねて三千里」をたずねて…10年越しの想い
第1話

僕がフランスに興味を持ったきっかけは何だったのか、はっきりと「コレ」というものはないように思う。ただ、初めて意識したのは、幼稚園か小学校低学年の頃だったと記憶している。その頃とても好きだったピアニストのリチャード・クレイダーマンはイギリス人なんだとかたくなに信じていた。ところがある日、プロフィールを見てみるとフランス人であることが判明し、僕はショックを受けた。別にイギリス人だろうがフランス人だろうが関係ないのだけど、子供心に(勝手に)信じていたものが、そうではないと知った衝撃の大きさといったらない!その時初めて、「フランス」を意識したのだと思う。それ以来、英語とフランス語の2言語に興味を抱いた。う〜ん、なんて知的な子供!

はっきりフランスのイメージが頭の中に植え付けられたのは、12、3歳の頃に観たテレビだ。テレビや映画の影響力というのは大きいものである。僕が観たのは、檀ふみさん主演の2時間もののスペシャル・ドラマ「母をたずねて三千里」だった。マルコが母を探して歩いて三千里・・・というあの世界名作アニメの実写版ではなく、タイトルだけパクった全くのオリジナル・ドラマだ。内容は、“檀ふみさん演じる母親が二人の子供(内ひとりは伊崎充則さんだった)を日本に残し、おフランス男を追ってフランスに行ってしまう。そして捨てられた2人の子供が母親に会いに、フランスへと向かう”という話。何気なく観ていたドラマの内容や映像をここまで覚えているとは、余程印象的だったということだ。

そのドラマの舞台になった海沿いのフランスの町が、いかにもフランスの田舎、という感じで印象に残り、いつか行ってみたいと思うようになった。そしてそのイメージが強く頭の中に“いいイメージ”として残った。その頃から強くフランスを意識していったように思う。そして、実際僕はフランスに行った。ドラマで見たフランスの町は、果たして何と言う名前の町なのか、全然分からない。でも行きたい、というジレンマ。同じ大学の友人にこの思い入れたっぷりの話をし、「ドラマでは、檀ふみさんが海辺で遊んでいた子供達に“もうすぐ満ち潮になるから気を付けなさい”と言っていたから、引き潮、満ち潮のあるところだと思う。なんかどんより暗かった」と伝えた。これしか手がかりはない。するとその友人は、「サン・マロじゃない?」と言う。サン・マロは、フランスの西海岸、ノルマンディー地方の美しいリゾート地だ。そうか、じゃあこの1年の間に絶対サン・マロに行こう!と心に決めた。何しろ、僕とフランスを繋いだ運命の町なのだ。

そしてその時はやってきた。帰国寸前の7月だった。その時僕は留学していたブザンソンを引き払い、1ヶ月間だけパリにいた。ブザンソンから遊びに来ていた日本人の友人と一緒に、日帰りでサン・マロに行くことにする。前日にSNCF(国鉄)で切符の予約をし、準備万端だったが、例によって二人して朝寝坊。電車を逃すと大変なことになる!!と、大慌てで支度をし、泥棒の逃げ足よりも速いスピードで駅まで走った。お陰で電車には間に合ったが、おやつ用に持って行ったマカロン(高級菓子店ラデュレの名物)は、粉々に砕け散っていた・・・。

第2話につづく。


異国にて…

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