第29話
レンヌでのひととき

11月27日(金)。SNCF(フランスの国鉄)がストライキを起こしている中、いざレンヌへ!ブザンソンからパリに行くTGVでは座ることが出来たが、パリ−レンヌ間が凄まじい混み様で、座ることが出来なかった。それでも無事になんとかレンヌに到着!2週間振りにリンゴと再会。いやはや・・・ブザンソンよりも都会である。この町はフランスの西海外ブルターニュ地方の中心都市で、ケルト系ブルトンの風習が根強く残っている美しい町だ。

リンゴが通う学校の友達Sに是非会わせたいということで、夕飯を共にすることに。Sはインド人で、同じくインド人の夫と、生まれたばかりの娘と共にフランスで暮らしていた。リンゴの話によると、Sは今ひどく悩んでいると言う。夫との愛のない生活、そして同じ学校に通うアメリカ人学生との不倫。これがまた問題で、そのアメリカ人ともうまくいかなくなっていると言う。レストランで食事をしたのだが、Sは知的そうな雰囲気もさることながら、暗い影をどっぷり背負っている感じだった。今現在の暮らしぶりだけでなく、インドでのカースト制度による辛苦が影を落としているようにも見受けられた。Sのフランス語は美しく、耳に心地良かった。大学に入って英語を勉強したいと言い、意欲に燃えていた。が、食事をしていても、その後カフェに移っても、話は始終暗く、不倫問題がずっしり重い感じだった。リンゴも悩みを抱えていてあまり元気がなく、話の中心人物であるSにより、僕たち3人の空気はすこぶる暗かった。

・・・一体、僕はレンヌに何をしに来たんだろう?リンゴとバカ話をして笑い転げるはずではなかったか??そう思ってしまうと、「一体なんで僕はSと会ってるんだろう?」という疑問点に到達してしまう。オシャベリのリンゴもずっとSの話を聞いて相槌を打っている。僕も同様だ。しかしSは、僕に「どうしておとなしいの?」と盛んに聞いてくる。この暗く淀んだ空気の中で、一体どうやっておちゃらければいいのだ?
「あなたは、ホンキで誰かを好きになったことはあるの?」
これには答えなかった。初対面で、しかも自分の不倫を正当化してもがいているSに、僕は自分のことを語りたいとは一切思わなかった。

夜遅くになってリンゴのアパートに戻り、僕たちは夜中の3時まで喋り、やっとこさ明るく笑えた。

翌日、昼過ぎに起床。街に出て買い物をし、そしてなぜかSの家に招かれていたので、夕飯をご馳走になりに行った。家にはSの夫、娘、そしてインドから出てきたばかりのSの姪がいた。インド料理が振舞われた。香辛料が好きではないので、アジア料理が苦手な僕は食べられるか不安だったが、何とか食べることは出来た。でも味わいながら食べることは出来ない。どうしても香辛料に抵抗を覚えてしまうのだ。この時間も、話の中心はSだった。元々人見知りの僕である。物静かな僕になる。そして、やはり突っ込まれる。
「おとなしい」
更には、姪にまで、
「フフフ・・・誰か眠そう」
とまで言われてしまう。優しそうな雰囲気のSの夫は、
「彼は話を聞いてるんだよ」
と言ってくれたが・・・。

何しにレンヌまで来たんだろう、という混沌を抱えながら数時間を過ごし、S宅を後にした僕とリンゴは、アイリッシュ・バーに行き談笑。しかし生憎1時で店仕舞い。他に店を探すも見当たらず、結局リンゴ宅に帰り、4時まで喋って就寝。

11月29日(日)。またもや昼過ぎに起床!なんと勿体無い・・・。僕は夕方の電車で帰ることになっていたので、あまり時間がない。レンヌはクレープが名物なので、リンゴお薦めのクレープ屋(レストラン)に行くも満席で入れず。とことんツイてない。別のレストランでクレープを食べた。その後、カフェに場所を移し、黄昏時になってレンヌを去った。

パリで乗り換える際、売店に朝日新聞があったので購入。電車の中で読み耽った。外国にいると日本語に飢えるので、普段日本では読まないような本でも新聞でも、貪るように読む。この新聞も隅から隅まで読んだ(日本でもその習性を続ければいいのに・・・)。

珍しく予定よりも15分遅れでブザンソンに到着。帰宅すると、日本から荷物が届いていたらしく、郵便局の不在連絡票が入っていた。

明日からまた学校だ。ガンバロウ!

第30話につづく

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