第30話
憂鬱なココロ

12月1日(火)。今年もあと1ヶ月。フランスに来て早くも3ヶ月が過ぎた。いよいよ冬到来。なぜか心も寒い。スカッとしない。あらゆることに不安を感じる。フランス語力にしても、伸びてるんだか伸びてないんだか分からない。ずっと平行線のような気もしてくる。語学力というのは日々の積み重ねなので、実感が出来ないのだ。授業に出てもイマイチ身が入らない。つまらないと感じてしまう。当初のあのやる気はどこに行ったんだ?!

同居人のポールは珍しく機嫌がいい。英仏交換授業をすることになったとかで張り切っていた。そういえば、僕も当初はフランス人と日仏交換授業をやりたいと思っていたのだった。学校の掲示板に張り紙して、日本語を話したいと思っているフランス人を探さなくては。
「掃除したんだけど、気付いてた?」
どうやって掃除したんだか、雑巾が見事に真っ黒になっていたので、気付いてはいたが、元々1週間交代で掃除をする約束になっているのだ。いちいち言うことでもないだろが!と心の中で反発していた。

12月2日(水)。先週の電車のストライキに続き、今度はバスのスト。僕は通学にバスを使わないので影響はないのだが、バス通学の人が多いのか、1時間目のオーラルの授業にはたったの7人しかいなかった。

夢を見た。場面は京都の大学。コンピューター・ルームでアルバイトをしているSさんと、僕の友達イワデレと3人で喋っていた。そこで僕は「実はヘビースモーカーなんだ」と衝撃発言をする。
「学校では吸わないけど、1日12日本吸ってる」
などと言って2人を驚かせていた。実際のところ、僕はタバコを嫌悪しており、一度も吸ったことがなかった。Sさんと食事をしに行った時、「吸ってみる?」と勧められたことはあるが吸わなかった。フランスは喫煙率が高い。そんな環境の中、日々のストレスもあり、潜在的にタバコに関心を寄せていたのだろうか。夢から覚めた瞬間、タバコを吸ってみたいな、という気になっていた。

先日届いた日本からの荷物には、日本食のレトルト品が色々と入っていたので、今日の夕飯は中華丼、さんまの蒲焼、そして“おーい!お茶”。なんて贅沢!一口一口噛み締めながら・・・。

ポン子から電話がきて、1時間半も喋った。ポン子は寮にある公衆電話を使っていたのだが、話しの途中でテレホンカードが切れたのに、それに気付かないポン子はずっと一人で喋っていたらしい。すぐに掛け直して来たのだが、
「ひとりで喋ってたわよ!“ちょっと!・・・ちょっと!”って言っても反応ないからおかしいと思ったわ」
と言うのを聞いて、僕は笑い転げた。普通、電話が切れたらすぐに気付くと思うのだが・・・。

12月3日(木)。夜、学校で各国の料理を食べる会が行われた。我々日本人は、カリム宅に集まり準備をした。肉じゃがやおにぎりを作り、更には飾りとして折り紙も用意。CLAに集っているほとんどの国の料理が出され、楽しい会となった。
「アメリカは何を出すの?というか、アメリカ料理って何?ハンバーガー?」
と、明るく皮肉を持ち出す人もいた。
「オ〜!アメリカ料理・・・そう、ハンバーガーとかサラダとか、ピザとか!」
アメリカ人は笑いながらおどけていたが、
「ピザはイタリア料理だよ」
と突っ込まれていた。

会が終わって帰ろうとした時、サトルたちは打ち上げに向かうところだった。「来る?」と訊かれたが、気分が乗らず断った。日本語を勉強しているフランス人のカティには明日の夕食会に招待を受けていたが、それにも気乗りがしない。何をしてもどんよりしている僕の心。家に帰り、ポン子に電話。なんと6時間も長電話をしてしまった!!!

翌日は頭が痛く、気分が悪かったので、カティの夕食会は断った。

第31話につづく

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