第28話
この国お得意の…

11月26日(木)。明日はリンゴに会いに、レンヌに行くことになっているので、切符を買いに行く。
「明日午後発のブザンソン―レンヌ間の切符を往復で1人分下さい」
「明日?難しいかもよ」
「なぜ?」
「今、“グレーヴ”中だから」
「“グレーヴ”?」
「そう」
イヤな予感。グレーヴ(greve)とは何ぞ?もしや、この国お得意のストライキであるまいねぇ・・・?モヤモヤした気持ちを抱えながら、持参していた小型辞書を引く。やっぱり。この国お得意のストライキのことだった・・・。
「・・・っていうことは、電車は走ってない?」
「走ってますが、本数はかなり少ないです。一応切符は発券しますが、席の予約が出来ないので、空いていたら座れます。空いてなかったら、通路になりますが・・・よろしいでしょうか?」
指定席の発券が出来ないということだけでレンヌ行きを諦めたくはなかった。何が何でもレンヌに行く!と思っていたので、電車が通っているだけでも有り難い。

切符を買った後は、ハルザキさんが家に来て夕飯を共に食べ、映画を観に行った。アメリカのコメディー映画「マリーに首ったけ」。観客がドッカンドッカン笑っている間、僕はその笑い声をぼんやりとした意識の中で聞いていた。ええ、僕お得意の、映画館にて睡眠中だったのだ。
「面白かった?」
映画が終わり、僕はすかさずハルザキさんに訊く。
「面白かったよ。コウ君、ずっと寝てるんだもん!」
「あーあ・・・。内容教えてよ!」
「え〜?!」
後日、僕はこの映画を一人で観直した。アメリカ映画をフランスで観るのは、フランス語の勉強に打ってつけ。ストーリーの流れが単純で、セリフの単語も比較的簡単なので、フランス映画よりも分かりやすいのだ。よって、「フランス語がさっぱり伸びない・・・」などと、気持ちが沈んでいる時はアメリカ映画を観るに限る。「結構理解出来たから、意外とフランス語力もアップしてるんだな」と、自信と勇気が湧いてくる。

ブザンソンに来た当初、気持ちが沈む雨の日に、ディズニー映画を観に行った。あまりにも気分が落ち込んでいたので、分かりやすいディズニー映画を観れば元気になれるだろうと思ったのだ。ところが、僕は席に着いた途端寝てしまった。起きた時は既にエンドロールで、僕は何も観ずに、ただ寝る為だけにお金を払ったも同じだった。がっくりしながら席を立ち、外に出ると雨。沈んでいた気分は、更に重くなった。

話は戻り、ハルザキさんと映画を観た後は、これまたお得意の Pop Hall に行った。この間会った、日本語が流暢な韓国人のキムさんとフランス人のネルソンがいて、ビールを奢ってもらった。今宵は、この一杯だけで退散。11時に帰宅。

明日はいよいよレンヌだ!リンゴとは2週間振りの再会だ。どうかどうか、問題なく電車が動いてくれますように・・・。と、祈るような気持ちでベッドに入った。楽しい再会になるはずだったが、電車のストライキから始まり、なかなかスムーズにはいかないレンヌ滞在になることを、この時点で僕は全く想像していなかった。

第29話につづく

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