第63話
「言ったり言われたり」

5月になった。あと1ヶ月で学校が終わる。そして僕の留学生活も終わるのだ。

フランス語のクラスに行くと、僕のプロムの相手のことを皆が知っていて、プロムの話で持ちきりになった。僕はダンスが苦手で・・・と言ったら、クローフォード先生が「じゃあ今日は授業を止めて、コウの為にダンス・レッスンをしましょう!」と言い出した。よって、僕は手とり足とりダンスを教わることになった。

ESLのクラスに行くと、バートン先生が「あなたがプロムにデスカと行くことになって、エフィーは傷ついてるわ」と言った。ミッシェルに続いて、今度はエフィーまで!だが、そもそもデスカを紹介したのはバートン先生張本人である。しかも僕はエフィーに会ったこともない。ミリンが笑いながら、
「そういえばエフィー、この間バイト先のマクドナルドで、お客さんからお金を貰わずに食べ物を渡したらしいよ。いつも食べてばかりで怠け者だから、皆笑ってる!」
と言った。ウェスリーも何かとからうし、国語のジョンソン先生まで、エフィーはクレイジーだと言っていた。エフィーという人は、どこに行っても悪く言われているようだった。

地元のケーブルテレビで放送されたクリスマス・コンサートの模様と、僕が紹介されたニュース映像のテープを買い取ることが出来るということで、ケネディー先生がテレビ局に連れて行ってくれた。学割で15ドル。あれから5ヶ月が経ち、ようやく自分の姿を見ることが出来た。随分緊張しながら、カチコチになって「きよしこの夜」を日本語で歌っていた。そして今、僕はスプリング・コンサートに向けて猛練習。ケネディー先生の家で、放課後はよく練習をさせてもらっていた。ある日、ベリンダの学校が終わる9時過ぎに、僕を先生宅に迎えに来てくれるということだったので、待っていたのだが、10時半になっても11時になっても迎えに来ない。電話しても誰も出ない。三度目の正直、11時半で家に電話してみると、なんとベリンダが出たではないか!僕はビックリして、咄嗟に「忘れたの?」と一言口から出てしまった。
「いいえ。何を?」
「僕を迎えに来ることを・・・」
「は?あなたを迎えに行くことになんてなってないわよ」
・・・。ケネディー先生は僕を家まで送って行くことを嫌がりはしないのだが、カータースヴィルからアクワースまで20分以上はかかる。それを懸念してベリンダが「私が迎えに行ってあげるから」と言っていたというのに・・・。
「あら、そうだったかしら?すっかり忘れてたわ。今日は10時半にテストが終わって、今帰ったところよ。悪いけど、ケネディー先生に送って貰えない?」

家に帰ると、ベリンダが「忘れててごめんね」と謝ってきた。僕もそれまで何度も失敗をしながら、その度に快く許してもらってきていたので、「That's OK.(いいんですよ)」と笑顔で言った。
「明日は迎えに行くから、ポケベル鳴らしてちょうだい!」
ベリンダが言った。

この頃になると、だいぶ英語には慣れて、南部なまりをよく真似ていた。そして南部独特の言い回しやアクセントを習得しようと、よく聞いていたものだ。僕が南部なまりを話すと、周囲はこぞって笑いながら喜んだ。ところがある日、フランス語のクローフォード先生は、「そうやって南部なまりを茶化して喜ぶのは rude(失礼)よ」と僕に言った。確かに気分を害する人もいるのかも知れなかった。しかしそう注意した張本人は、日本人である僕を前にして、日本語なまりの英語を真似ることが失礼だとは思わないのだろうか?と僕は不思議に思った。概して自分のことには気付かないものである。

第64話へ



留学記目次