第19話
「学校初日」

また家にひとり。とにかくヒマ。ヒマ。ヒマ。昨日、衝撃的な事実と共に、僕はこの家にステイすることが決まったので、荷物を全部スーツケースから出し、部屋の片付けをした。そして午後、手紙を書いていたらデニーの息子ダラスが学校から帰って来た。初対面だった。その後、トリーも帰って来て、実にうるさくなった。ふいに寂しくなり、日本に帰りたいと思った。これがホームシックというものだろうか?ルイスヴィルでは気を張っていて毎日必死で、ホームシックにかかる余裕もなかったが、ここにきて気が抜けて、更には子供たちの無邪気な姿を見ていたら、妙に「家族」というものを意識し出してしまった。

ベリンダがロレインと電話で話し終えてから、
「You're officially ours!(あなたは正式に私たちのもの!)」
と、大喜びで叫んだ。やっぱりロレインがPIEをクビになったというのは嘘なのだろうか?とにもかくにも、早く学校に行って忙しくしたい。明日、デニーが仕事から帰って来たら科目登録をしに行くということだ。ということはあさってから学校に通えることになる!10日間も本当にヒマだった。

その夜、コロラドに留学している友人Kから電話がかかってきた。ホストチェンジをしたとは知らずにルイスヴィルに電話をしたところ、ミルドレッドが出て、
「コウは日本に帰った」
と言ったらしい。Kはすこぶるビックリして、ニューヨーク州の田舎村に留学している友人Nに電話をかけた。僕はヒマを持て余していた時、Nに電話をしていたので、NはKに僕の事情を話したらしいが、Kは信じられずにいたようだった。とにかく驚いていた。

この日、僕の部屋にはコードレス電話が備え付けられた。自分の部屋に電話機があるなんて!勿論専用ダイヤルではないが、それでも凄く嬉しかった。

翌日、学校に科目登録に行くはずが、結局デニーの帰りが遅かった為、またもやヒマな1日となった。この家に来て早1週間。ヒマすぎてふやけそうだ。そしてその翌日、10月5日(水)、北海道で大地震があった日(スーパータイムを見て知った)、やっとの思いで学校に行くことが出来た!12日ぶりの学校である。本でよく見ていたアメリカの典型的な黄色いスクールバスで40分程かかるキャス高校(正式名はCass Comprehensive High School)は、カータースヴィルというアクワースよりも少しだけ開けた町にある1,600人の大きな学校だった。学校内に足を踏み入れると、生徒のほとんどが白人だったので驚いた。そうだ、ここは郊外だったのだ。アトランタ郊外は白人が多い。学校は7割が白人だった。そしてやはりこの学校でも、白人と黒人はランチルームにしても並ぶ列にしても自然と分かれている。別に対立しているとか、仲が悪いとかそういう風には見えなかったが、なぜそんなにも綺麗に分かれるのか、僕の目には不思議に映った。

担当カウンセラーのマッキーナという女性はヒステリックな感じで、あまり笑わない。ルイスヴィル高校では、ミルドレッドのはからいで1年上の12年生(高校3年)のクラスに入っていた。卒業も出来るし何かとイベントがあって楽しいから、という理由だった。でも、卒業するとなると卒業テストを受けなければならないし、何かと面倒臭そうに思え、キャスでは少し気楽な11年生(高校2年)にしてもらい、履修科目も変更したいと思っていたのだが、マッキーナは「変更不可」とキッパリ言った。

登校初日、アジア人留学生は僕一人だけということもあり、学校中の注目を集めた。授業に行けばそこそこで質問攻めに遭い、廊下を歩いていても何かと話しかけられる。これは僕にとって嬉しいことであった。そして放課後、スクールバス乗り場に行くと身動きがとれないほどに囲まれてしまい、質問を一度に何人からも発せられ、嬉しい困惑の中、ふと気がつくと僕が乗るはずのバスは行ってしまった!!!仕方なしに、ベリンダの会社に電話をし、迎えに来てもらった。でも僕は上機嫌だった。楽しい学校生活になる予感がしていた。

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