第4話
「サバナ」

学校に行き始めてから初めての週末。8月27日(土)は、ミルドレッドの息子の誕生日ということもあり、彼が住む南ジョージアのサバナへ行った。ルイスヴィルから車で3時間くらいだったろうか(全く覚えていない。5時間くらいかかったような気もするし・・・)。行きの車の中で、オジーとミルドレッドは激しく喧嘩した。穏やかなオジーが声を荒げることはなく、大抵ミルドレッドが怒っているのだが。こういう時、僕は自分のことで喧嘩しているのだろうか、という被害妄想に陥った。実はルイスヴィルに到着した翌日から、ミルドレッドが誰かと話していると、自分の悪口を言われているような気になったのだ(実際、本当にそういうこともあった)。

何もない貧しい田舎町ルイスヴィルに比べるとサバナは都会的に感じた。ビーチがあり、イベントもあり、楽しい町だった。その町に、ミルドレッドの息子と娘が同じアパートで暮らしていた。20代前半で大学生だった。グウィーンも合流した。モールに行った時、僕は日記帳を買いたかった。でも気に入ったのが見つからず、ついて来たグウィーンはイライラしていた。自由行動させてくれればいいのに・・・。何かといえばすぐに苛つくミルドレッドとグウィーンとは逆に、サバナにいる息子と娘は穏やかな性格だった。2人はとてもいい人たちに思えた。でも、とても居心地が悪かった。早く帰りたいと思ったが、結局2人のアパートに泊まることになった。その夜、ミルドレッドの息子は僕にこう言った。
「僕のお母さんは本当にいい人だから、きっと君も好きになるよ」
自分の母親なんだから、悪く思わないのは当然かも知れないが、僕にはとても「本当にいい人」だとは思えなかった。でも、僕はその夜、ホストチェンジはせずにルイスヴィルで頑張ろうと心に誓っていた。

翌日は昼過ぎに家に戻った。グウィーンも一緒に。僕はアメリカ社会ではとても重要なクレジットカードが欲しくて、その申請用紙を銀行から貰っていた。記入する箇所で分からない点があり、ミルドレッドに訊こうとしたら、グウィーンにバトンタッチされた。グウィーンは確かに説明はしてくれたのだが、僕が理解出来ないことに物凄く苛つき始めた。いつもこれだ。そして、僕はまだ高校生なのだからクレジットカードは必要ないと言われ、結局作らないことになった(後にホストチェンジした時は早速作った。その時のホストはクレジットカードは必要だと言っていた)。ミルドレッドは、昨日はオジーと大喧嘩し、今日はグウィーンと大喧嘩していた。

不思議なのだが、昨日は「このホストと共に頑張ろう」と思い、今日はホストのことがなぜか好きになり、本当にここで頑張ろうと思えた。この先、僕はこういう感情に振り回されることになる。それはそれで辛いことだった。好きになったと思えたのに、また突き落とされるのだから・・・。

第5話へ



留学記目次