1999、夏、イタリア珍道中シリーズ
Vol. 7 「タコ」

船での往復、ほんの数分(数十秒?)の洞窟体験だけで、随分とお金を遣った感があった「青の洞窟」ツアーだったが、僕達は充分満足していた。ジェノヴァでの悶々とした気持ちも、ナポリの騒々しさやスリ未遂事件も、これで気分が晴れた。

予定していたことは、次々とこなしていた。だが実は、イタリアに着いたその日から、3人共通の欲求不満が残っていた。それは「タコ」である。僕達はなぜか、イタリアに着いてからタコが食べたくて仕方がなかった。だが、入るレストラン入るレストラン、タコがなかったり、あったとしても「小ダコ」で、欲求が満たされることはなかった。

そしていよいよ、このナポリの地で待望のタコに出会うことになる!なかなか治安のよろしくないナポリをかなり警戒しながら歩いていた僕達は疲れ果て、レストランを探す気力も街中に繰り出す元気も残っていなかった。20代前半とは思えない体力である。そこで、ホテルの前にあるイタリア料理店に入った。特に期待もせずに入ったこの店、これがまた、このイタリア旅行最高の味を提供してくれたレストランだった!しかも、タコもある。3人共パスタを頼んだのだが、本当に美味しかった。やっと出合えた「ホントの美味」だった。

夜は出歩かず、おとなしくホテルで過ごした。シャワーを浴びる時間になり(決められていたわけではないが)、順番ずつ入ったのだが、2人目が浴び終わった時、「途中で水になった」と言う。一番最後の僕は、水しか恩恵を受けることが出来なかった。一滴たりとも「湯」には触れられなかった。聞けば、最初に浴びたAは、最初から最後まで「湯」を堪能出来たという。・・・ま、安宿だ。お湯が出ない、なんてヨーロッパじゃ珍しいことじゃない。

ナポリの夜。安宿の夜。どうやら、このホテルの通りもあまり治安がいいとは言えない地域のようだ。外では大暴れしている輩共の叫び声や、爆竹の音が聞こえる。随分と騒々しい。やはり、都会は疲れる・・・田舎でのんびりしたい・・・なんて、老人のような会話を繰り返していた。

翌日、パスポートも無事に受け取り、さて次はMが一番行きたがっていたアルベロベッロに向かう為、駅の切符自動販売機で検索して唖然。ナポリからは随分と遠い。1日かけて行かなくてはならない。更に切符代が妙に高い。Mは、蒼い顔に諦めの表情を含ませていた。なかなか覚えられない地名アルベロベッロ・・・せっかく皆で一生懸命覚えたのに。それも虚しく、アルベロベッロ行きは中止。では、コモ湖に行こうか!ということで、また検索をかけてみるも、これまたアルベロベッロと同じくらい遠く、そして高い。ここまで来ると、3人共蒼白である。ふと僕が、
「どうする?どこに行く?ローマに行く?・・・それとも・・・ブザンソンに、行く?」
と呟いた。後者は、フランスに帰ることを意味している。すると、
「ブザンソンに、行こう、、、か」
と誰かが呟いた。3人、顔を見合わせる。旅行を始めて1週間。疲れが出てきた頃だ。お金も結構遣った。ペルージャにも行ったし、青の洞窟も見た。風情あるヴェニスも見たし、船でブラーノにも行った。フィレンツェではダビデ像を見た。ジェラートは毎日食べた。スッコダランチャ(オレンジジュース)も飲んだ。更にはタコも食べられた。
「帰ろ・・・っか」

というわけで、予定よりも2〜3日早く帰ることになった。フランスのブザンソンに帰るには、まずローマに行かなくてはならない。ローマで夜行列車に乗り換えるのだ。

Vol. 8 「愛」へ


異国にて…

エッセイ目次