1999、夏、イタリア珍道中シリーズ
Vol. 5 「偽物」

半日でフィレンツェ観光には見切りをつけ、翌日はとある雑誌の「フィレンツェから行く田舎」特集に載っていたペルージャに行った。電車で2時間。ペルージャと言えば、あのサッカーの中田選手が以前いた町である。僕が行った当時(1999年6月)は、まだ中田選手がペルージャで活躍していた頃である。僕はサッカーに全く興味がないので、「ああ、そう」という感じだが、実際ペルージャに到着すると、「NAKATA」と名の入ったユニフォームを着た子供をあちこちで見かけ、更には店に入り、僕達が日本人だと分かると、店員に「ナカタは活躍してるね」と声を掛けられたりで、現地での中田人気を見せ付けられた。そして、中田選手お目当ての日本人観光客も多いようだった。

この町に辿り着いた瞬間から、僕達はいたくこの町が気に入った。今まで見てきたイタリアの何処よりも(と言ってもたったの3都市だけだが)、風情があって美しいと思った。屋根はオレンジでいささか南仏を思い起こさせる。だが、やはり南仏とも一味違う、イタリアののどかな風景が広がっている。本によれば、「3人歩くのにもやっと、というくらいの細い道が沢山ある」という。ならば!というわけで、挑戦してしまうのが僕達だ。確かに細い小道は沢山あったが、3人歩くのにもやっと、というのはかなり大袈裟な表現だ。とは言え、その細い小道がまた風情があっていい。そして坂道。なぜこんなにも、小道や坂道というのは、情緒を感じさせるのだろう。ずっとその風景を見ていたい気分だ。懐かしい気分になり、まるで自分が昔、そこに住んでいたかのような錯覚に陥る。

明るくて、のどかで、静かで、美しい町。なぜ、観光客の殆どはフィレンツェ止まりなんだろう。僕達は、フィレンツェよりも、ここペルージャの方が何倍も気に入った。

そしてふと目に入る、ジェラートの店。レモンのジェラートとスッコダランチャ(オレンジジュース)を注文する。イタリアの、しかも照りつける太陽の下で食べるジェラートはやはり格別だ。もうジェラートがないとやっていけない。無駄だった「ジェラートはもう止めます」宣言のことなど、すっかり忘れていた。

ささやかな幸せを満喫した後、露店でアクセサリーを売っているのを見つけた。僕はその時、かっこいいブレスレットがあれば欲しいと思っていたので、並べてある商品に見入った。その中にそこそこかっこいいブレスレットがあった。値段を尋ねると、15万リラ(約1万2千円)だと言う。ゲッ、高い!でも、デザインは悪くないなぁ・・・10万リラ(約8千円)だったら買うのに、と思いながら、「負けてくれません?10万リラでどうですか?」と聞くと、絶対に15万リラだと譲らない。確かに、欲しいとは思うが、やはりちょっと高い。僕はかなり渋っていた。すると、「だったら、13万リラ(約1万400円)でどう?」ときた。13万リラでも高い。僕は10万リラまで落としてくれないのなら買えないなぁ・・・でも、絶対に10万リラには出来ないと言い張るし・・・やっぱり今回は諦めようかな・・・と思った瞬間、Aがそのブレスレットに「NIKE」と刻まれたロゴを発見!これはニセモノ!というより、「NIKE」と書かれていなければ、とても欲しいと思ったが、ヘタに「NIKE」なんて刻んである為に、一瞬にして買う気が失せた。
「やっぱり要りません。さようなら!」
と言って立ち去ろうとすると、露店のニーチャンは慌ててこう言った。
「えっ!要らないの?!・・・だ・・だ・・だったら・・・10万リラでいいよ!!どう?10万リラだよ!・・・10・・・万・・・リ・・・・・ラ・・・・」
僕達が遠く、遠く離れていっても、ニーチャンは叫び続けた。逃した魚は大きいってことね。何事もタカをくくっちゃいかん。ま、今回のブレスレットは例え5万リラでも買わないが。

ペルージャには特に目ぼしいものはない。だが、この小道と坂道が織り成す風情にメロメロになり、もっとここに居たい、もっと散歩していたい、もっとゆっくりしたいと思っていた。夕飯はピザを食べた。イタリアに来て、やっと美味しい本格的なイタリアの味を堪能出来た。

名残惜しさに後ろ髪をひかれつつ、日も暮れたのでまたフィレンツェに戻った。戻る電車の中で、後方から一人の男の怪しい視線を感じる。「日本人」だと分かって狙っているのだろうか?!とても薄気味悪い。電車を降りてからは、その人から遠く離れた。しかし、駅からホテルまでの道中、今度は別の男が後をつけて来る。恐怖を感じながらも、急いでホテルに戻った(というより、ダッシュで走った)。無事だった・・・。

夜はいつものように、ベッドの上でトランプ・パーテー。そしていつもの如く、僕だけが(?!)勝っている。2人に悪いなぁ〜、と思いつつも、勝ってしまうのは仕方ない。明日はナポリに移動なので、また早起きしなきゃいけないのに、夜には強いのだった。フィレンツェ滞在を振り返る。
「皆、フィレンツェは1週間居ても足りないって言ってたけど、そんなことないよねぇ!」
「ないない。皆、フィレンツェ止まりでペルージャに行かないってのがおかしいよね」
「そうそう、フィレンツェ止まりってのはアホだね!」
「じゃあ、皆アホなんだね」
「そうだよ。まぁ、美術館巡りするんだったら1週間居ても足りないかもね」

これが僕達の旅なのだ。ちょっと(かなり?)感性のズレた、おかしな旅。アナタも今度、ご一緒に如何?

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異国にて…

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