1999、夏、イタリア珍道中シリーズ
Vol. 4 「欲望」

イタリアに来て4日目となるフィレンツェ2日目の朝、奇跡が起きていた。暇さえあれば寝ていたMが、なんと一番に起きてシャワーを浴びていた。前の夜は、夜中の4時まで喋っていたのに。

身支度を済ませ、昨晩夕飯を食べた店でランチ。やはりイモが美味しい。皆してイモが美味しいと、イモばかり頬張っていたのに、なぜかMだけが「小野妹子」と命名されてしまう(イモつながり)。
「小野妹子って(名前は女みたいだけど)、男なんだよ」
Mがそう言った瞬間、Aは「えーっ!!知らなかった・・・」と驚く。僕は、決して知らなかったわけではない。昔の偉い男の人の名前には「子」が付いた(他には孔子)ということを学校で習ったことを、Mの言葉によって思い出したのだ。そう、知らなかったのではない。忘れていただけだ。なので、調子に乗って、
「知らないのー?」
と、“知ってました”派のM側に回ってしまった。

変に見栄を張ったランチの後は、フィレンツェ散策。その手始めに、アカデミア博物館へ向かう。ここには世界的に有名な、ミケランジェロの肉体美彫刻「ダビデ像」があるのだ。

まずびっくりしたのが、入り口に並んでいる人の山だ。30分以上は待つ覚悟で列に並ぶ。そしてびっくり第2弾は入場料の高さだ。確か日本円にして1,200円位はしたと思う。続くびっくり第3弾は、ダビデ像の大きさである。いつも写真やテレビで見ていたので、実際には4メートルもあるとは思ってもいなかった。随分とデカイ。迫力満点。ちなみに、写真やテレビで見るダビデ像は正面だけである。後ろ姿を見たことがないということで、僕達はダビデ像の後ろ姿に合わせ、自分達も後ろを向いて記念写真を撮った。アホみたいな写真に仕上がった。びっくり第4弾(最終回)は、この博物館はダビデ像しか見るものがないことだ。ダビデ像しか展示されていない、という意味ではない。ダビデ像の存在感が大きすぎて、他の作品が霞むのだ。

それにしても暑い。6月なのに、もう夏だ。アカデミア博物館の後、僕達はフィレンツェの街中を散策した。とにかく歩いた。途中、大聖堂の見学もした。そして、3人口を揃えて呟く。
「フィレンツェって、1週間居ても足りないって聞いてたよねぇ?」
「うん。言ってたよね」
「・・・1週間も居れば飽きるよね」
「うん。飽きるね」
「・・・半日で充分だよね?」
「うん。半日でいいよね」
「明日どうする?またフィレンツェ観光する?」
「どうする?明日は別の町行こうよ」
「そうだよね、フィレンツェはもういいよね」
「フィレンツェには博物館が多くあるから、それが目的であれば1週間いても足りないのかもね」
「そうだよね。でも博物館はもういいよね。高いし」
「でもなんで、皆、フィレンツェをベタ誉めしてたんだろ?」
「不思議だね」
・・・暑さ故、喉が渇き、大聖堂近くの食堂で、果肉入りスイカジュースを飲みながらの会話だった。結局、ジェラートどころか、欲望のままにお金を遣い続けているのであった。

これが僕達の旅なのだ。

Vol. 5 「偽物」へ


異国にて…

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