第61話
笑える位トラブル続きのアンジェ訪問

3月23日(火)。ダンスレッスンには楽しく通っている。毎回様々な踊りをやる。今日はアフロ。参加している人たちも親切で、ある人は「喉が渇いたら私の水飲んでいいよ」とまで言ってくれた。コーラスのグループにも参加しようと、いろいろ覗いてみるも、いまいち惹かれるところがない。

3月25日(木)。大の苦手なレジュメ(文章の要約)のテストがあった。珍しく朝早く起きて朝食もきちんと摂って行ったのに、先生が言った文字数を勘違いし、かなり短くしてしまい大失敗。「現代フランス語」の授業は相変わらず難しく、今日は先生が文明と文化の違いを哲学的に延々と語っていたが、当然の如く僕は上の空。CLAでの授業後、学部に行って英語の授業に出ようとしたのだが、ストを起こしていて授業がなかった。

3月26日(金)。明日はイワデレが留学している西フランスのアンジェに行くことになっている。ポン子も来ることになっているのだが、風邪を引いていて雲行きが怪しいとか。でも、僕とポン子は何かしらで毎月会っていて、その記録を途切れさせたくない!という妙な意識が互いに働く。何とかして行く!と言っていた勇ましいポン子。しかし、ユーゴスラビアのコソボ紛争が勃発し、電話口で「ノストラダムスの予言が当たるかも!世紀末だし・・・日本に帰れるかしら?怖い〜!」と大騒ぎしていたので、さすがの僕も不安になり、France Info(24時間のニュース専門チャンネル)を聴いた。空爆が開始され、何だか大変なことになっていることは分かったが、いまいち詳細は掴めなかった。

それにしても、明日アンジェに行くというのにイワデレからは連絡がない。こちらから電話しても留守。一体どうなってるんだ?明日アンジェに行って会えるのだろうか?とりあえず、アンジェに着く時間を留守電に残しておいた。

3月27日(土)。6時のTGVに乗るはずが、5時50分起床!またやってしまった・・・。それでも諦めず、大慌てで家を飛び出し、逃げる泥棒のように全速力で走り、タクシー乗り場に向かった。しかし、駅に着いた時には、既に電車は発車しており影も形もなかった。仕方なしに次の電車に乗ったが、今度は途中で電車が止まり、ディジョンで降ろされた。連結の電車が待っていると車掌は言っていたのにも関わらず、そんなもん、待ってなどいなかった。イワデレに電話するも出ず。結局遅れに遅れ、3時25分アンジェ着。イワデレは見当たらない。20分後、イワデレのホームステイ先に行こうと、タクシーに乗ろうとしたら、オバサンに先を越されムッとした・・・が、ふと見たらそこにイワデレが居た!なんたるタイミング!

買い物をしたり、アンジェ城を見たり、カテドラル(大聖堂)に行ったりし、夜はメキシコ料理を食べ、バーで飲み、イワデレの家に行った。喋りまくっていたのだが、いつの間にか椅子の上で寝ていた僕。

3月28日(日)。11時半着の電車に乗ってポン子がアンジェにやって来るはずだったので、僕とイワデレは駅まで迎えに行った。しかし、降りて来ない。奇しくも今日からサマータイムで1時間進んでいるのだが、あのポン子のこと、忘れている可能性99.999%。僕とイワデレはそう確信し、次の1時着の電車に乗っているかも知れないと、一旦駅を離れカフェでお茶をした。トイレ中のイワデレを急かしに急かし、1時で駅に行くも、ポン子現れず。ではその次の3時半、これには絶対に乗っているだろうと確信して、ランチを食べにイタリアン・レストランへ。

しかし・・・ボーッとしているポン子がサマータイムを忘れているであろうことは何の驚きでもないし、「ああ、やっぱり」という笑い話にすり替わるが、もしや風邪が悪化しているのではあるまいか?という心配もなきにしもあらず。

「今度こそ居ますように!!」と願いつつ、3時半着の電車がホームに入って来た瞬間、まだポン子の姿を見つけてもいないのに、僕とイワデレは大興奮した。その電車がポン子にソックリだったのだ。ボーッとした風貌の電車。
「これにはゼッタイに乗ってる!間違いない!絶対乗ってるよ!!」
2人でそう強く確信した直後、電車から降りたポン子を見つけた。
「いたいた!!ホラ!!!やっぱり!」
僕たちはまた大笑いし、遠くからポン子も僕たちの姿を認めたようだった。そして階段を上り、こちら側に向かって来た時、開口一番ポン子は、
「ちょっとー!!!いきなり何二人で大笑いしてんのよー!」
と、ふくれていた。
「だって、あまりにもあの電車がポン子にソックリだったから!絶対に乗ってるって確信してたら、ホントにポン子が降りてきたんだもん!」
「何それー!失礼な!」

でもって、ポン子が遅れた理由とは、やはり「サマータイムお忘れ」であった。風邪はすっかり良くなり、ピンピンしていた。
「でもフランス人に時間聞いたら、普通に1時間遅い時間教えられて・・・」
サマータイムに慣れているはずなのに、それを忘れているフランス人に時間を訊くとは、正に類は友を呼ぶというやつではないか。

やっと3人揃い、アンジェ城に行って大騒ぎした後、グリルのレストランで夕飯。笑いに笑った。何かとイワデレにダシにされるポン子は、「悪魔!」を連発し、終いには、
「悪魔のクセに、天使みたいな名前の町(アンジェ)に住まないで!」
と、キレていた。3時半で到着したポン子は、9時半の電車でお帰りになった。風のようにやって来て、風のように去って行った。

僕たちは来週、南仏を旅行する。ポン子が帰った後、イワデレの家に行き、南仏の計画を大まかに立て、僕は12時の夜行列車に乗りブザンソンに帰った。それにしても、すこぶる慌しい週末であった。

第62話につづく

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