第43話
フランス人との交流

「ガチャン!」
何かが割れた音。台所でポールが割ったものは、僕のコップだった。しかし驚いたことに小心者のポールは僕に謝りもしなかった。知らんぷりしている。後から謝罪があるのかと思いきや、それもなし。思い切って、ポールに「コップ割らなかった?」と訊くと、慌てながら「新しいのを買って返すよ。君はすぐ部屋に入ったから何も言わなかっただけ」と言い訳をした。そういう問題か・・・?

新年に入ってからCLAには、アメリカ人団体が38人もやってきた。ただでさえ多いアメリカ人・・・米語が更に飛び交う。

1月8日(金)。朝8時に医者に行く予約をしていた。フランスに長期滞在するにあたり必要不可欠かつすこぶる申請が面倒な「滞在許可証」を得る為には、健康診断を受けなくてはならない。僕が起きたのは、なんと9時過ぎ。慌てて飛び起き、予約している医院まですっ飛んで行った。時間が過ぎているから今日はダメ、なんて言われてしまったら、予約をとるのにまたまた時間がかかる。それだけは何とか避けたい。恐る恐る診察室に入る。既に9時半になっていた。
「なんで遅れたのでしょうか?」
40代半ばくらいのおじさん先生は、ニコリともせずに僕の顔を見つめる。
「あはぁ・・・その・・・」
「何?」
「ちょっと・・・」
「何でしょう?遅れた理由は?」
日本人お得意の“笑ってごまかせ”は一切効き目なし。
「起きられなかった?」
「・・・はい」
“なぜ”攻撃と、叱られただけで、診察はしてくれた。

1月9日(土)。ヨウコさんの家にお呼ばれ。僕の他にフランス語教師育成コースの人たち3人が集っていた。さすがに皆さんボキャブラリーが豊富だ。

帰宅後、ラジオのニュース専門チャンネル「France Info」を聴いていると、どこかで聴いたことのある曲が流れた。すぐに思い出した。小沢健二さんの「ラブリー」だ。フランスで日本のポップスが流れるとは!ところが前奏が終わり、歌に入った途端違う歌になっていた。
「あれ?」
前奏や伴奏はまるっきり同じだった。

1月11日(月)。夜は久々にロータリーの例会に出席。今日は食事付きだ。隣に座っていたファランさんは、僕のアパートのご近所さん。
「君は何か音楽をやってる?」
「ええ。小さい頃からピアノを」
「やはり!分かるよ」
「なぜ分かったのですか?」
「君のフランス語のアクセントを聞いてそう思った。音楽をしている人は耳とリズム感が自然に養われているからね」
「ビックリしました」
「じゃあフランスでもピアノを練習している?」
「いえ、アパートにはピアノがないですし、弾く機会がないんですよ」
「家にピアノがあるから、今度弾きにいらっしゃい」
「本当ですか?とても嬉しいです。是非、伺わせて頂きます!」
まさかの展開だった。近所に極々一般的なフランス人の知り合いを求めていたし、ピアノの練習もしたいと思っていたのだ。胸躍る出会いであった。

CLAの掲示板に日本語とフランス語の交換授業を希望するフランス人を募集したら、数人から連絡がポツポツときていた。フランス人との交流に精を出すぞ!と意気込んでいた。

第44話につづく

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