第34話
喫煙

12月17日(木)。突然「講読」の授業の先生が変わり、グッと難しくなった。対母語の辞書は持ち込み禁止(仏仏辞典と類義語辞典はOK)、授業中に書いたテキストも最後には集める、というこれまでにない徹底した授業方針だ。しかも全員の顔と名前をすぐに覚えるという凄まじい先生。

夜、カリムの家でパーティーがあり僕も参加した。フランス人たちは当然のようにタバコを吸っている。先日見た夢以来、なぜか突如としてタバコに興味を持ち始めていた僕は、1本貰った。
「吸ったことないの?そうか。まずタバコを咥えて、火を点ける」
「あれ?点かないよ」
「吸いながらじゃないと点かないよ。そうそう。で、煙を肺に流し込む。初めてだと、むせる人が多いんだな」
僕はむせて咳き込むのを覚悟で吸ってみた。あれ?むせない。咳も出ない。
「肺まで入れてないんだよ。煙を吸って、ただ出してるだけ」
スパスパとその動作を繰り返し、あっという間に1本が終わった。
「どう?」
「なんか吸った感じがしない」
「じゃあ、もう1本吸ってみる?今度は肺まで入れて」
遠慮なくもう1本貰う。しかしまだ肺までは入らない。
「そのうち出来るようになるよ」
こんなもんか、という感覚と同時に、タバコにハマる気持ちが分かる気がした。

夜中の3時に帰宅。

12月16日(金)。僕は金曜日に授業がないので、昨日で年内の授業は終了のはずだったが、先日「一般言語学」が休講になり、今日の午後に補講があった。マレーシア人のお姉さまのお助けで、アレックスとヒーヒー言いながらやったレポートが返ってきた。なんと15.5点という高得点が記されていた。僕自身、何が何やらさっぱり分からず、何を書いているのかさえ分からないくらいメチャクチャなレポートだったというのに・・・。一体、どういう基準で点数をつけてるんだろう?

夜はサトルと、カンヌ映画祭でグランプリを獲得したギリシャ映画「永遠と一日」を観てから、香港人や台湾人たちとのパーティーに行った。日本の音楽にとても詳しく、SMAPのCDもあった。僕は最終バスを逃してしまい、香港人のレイモン宅に泊めてもらった。

12月17日(土)。台湾人のシャウイが家に遊びに来た。待ち合わせ場所から家に向かう途中、寄りたいところがあった。
「タバコ屋に寄っていい?」
「タバコ吸うの?」
「数日前に初めて吸ったんだけどね」
どの銘柄を買えばいいのかはさっぱり分からない。レジの奥にずらりと並べてあるタバコを眺めながら、ふと、フィリップ・モリスは中山美穂がCMやってたからそれにしよう、とフィリップ・モリスの1mgに決めた。

家に着いてから、早速ワインの空き瓶を灰皿代わりにして吸ってみる。タバコを吸わないシャウイにも勧めると、恐る恐る吸いながらむせ返っていた。そして僕は今日から喫煙者となった。

ポン子と5時間も長電話。タバコのことを話したら驚かれた。
「あなたはタバコが大嫌いって言ってたから、私が吸うことも絶対に言えないと思ってたんだよ〜!」
と言うので、オススメの銘柄を訊いてみた。フランス産の「ゴロワーズ」を勧めてくれた。僕は明日からスイスに一人旅に出る。ゴロワーズを買って出かけよう。

第35話につづく

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